議論について

http://b.hatena.ne.jp/entry/http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20090123/p1
ここでの、id:inumashさんのブックマークに関して、ちょっと考えることがあった。

inumash 脳が火薬庫, 88?豆鉄砲, 精子の代わりに弾丸を, 藁人形の兵隊, ビニール袋の迷彩服 ←思いつく限り並べてみたけど才能ないね、俺。/この手の話は互いに立脚点を異とすることなんて前提で、その上で事実の検証をして同意できる部分を探るものだと思ってたんだけど、どうやら違うみたい。 2009/01/23

注記しておくと、ここで言われている「この手の話」とは、白燐弾をめぐる話である(例えばPledgeCrewさんの2009-01-20というエントリ)。

確かに、「お互いの立脚点を異とすること」を「前提」して、その上で「同意できる部分を探る」ことに成功した議論は、実り豊かな議論であることは間違いない。例えば、何らかの規約を定めるための民主的な手続きのための議論は、さまざまな立場を勘案しながら落とし所を探る必要があるだろう。だが、議論とは常にそういうものであるとは限らない。「お互いの同意点」なんてものが存在しない議論もあるからである。

例えば、inumashさんが問題にしているid:Apemanさんが普段どのような議論をしているのかを見ればそれは一目瞭然である。彼の初期からのブログである旧本館や、Apeman’s diaryを見れば分かるように、Apemanさんの議論の相手になっているのは、ロッキード事件陰謀論を唱えるや人権擁護法案レイシズムむき出しに反対する人達、そして南京事件を否定する人達である。その場合、陰謀論者や歴史修正主義者に対して歩み寄る余地などないのは明白である。なぜならば、陰謀論者や歴史修正主義者は、騒ぎ立て相手に少しでも歩み寄らせ、そうすることによって事実に反する自らの言明の存在を認めてもらうことが狙いの一つだからである。そこで、基本的には相手の意見を様々な事実や証拠で叩きつぶすような議論が展開される。

このような議論の型を持つApemanさんであるから、議論の相手に見切りをつけてしまうの閾値はあまり高くない。自分の質問にちゃんと答えなかったり、その他議論に対する誠実さが見られないと判断できるようなことがあれば、すぐに見切りをつけてしまう。それはそうで、陰謀論者や歴史修正主義者のたわごとに最後まで付き合いきれるわけもない。そして、このエントリの最初に掲げたブックマークにおいてD_Amonさんが、

D_Amon 白燐弾, 議論 この問題は、南京事件否定論を展開する人々が、実の所、それは「無知の無知」による増長でしかないのに、自分のことを論理的で現実的で世の中のことを分かっていて思想的中立だと思い込んでいたのと似ていると思う。

と評したのは示唆的であろう。inumashさんはそう感じなかったかもしれないが、Apemanさんは自分の論争相手にそういった臭いを嗅ぎ取り、早々に見切りをつけてしまったのだ。

だから、inumashさんは「この手の話は互いに立脚点を異とすることなんて前提で、その上で事実の検証をして同意できる部分を探るものだと思ってたんだけど、どうやら違うみたい」なんて言っても仕方がない。Apemanさんは見切りをつけ、同意できる部分を探るに値しないと判断したのだから。では、inumashさんはどうすべきだったか。上のPledgeCrewさんのエントリで、Apemanさんが登場した後も、まだ見切りをつけず同意点を探っている人がいる。id:mojimojiさんである。mojimojiさんは、相手の意見を叩きつぶすような議論ばかりしているわけではないから、議論に見切りをつける閾値はApemanさんよりもかなり高い所にあった。だから、それでも同意点を探ろうとしていた。そこで、inumashさんがすべきことはmojimojiさんの尻を叩くことだったはずだ。ここで「この手のアホなレッテルは“貼った側”の方がダメージ大きいよねぇ」なんてApemanさんをあてこすっている暇があったら、「mojimojiさん、Apemanの勢いに圧されずに、もっと同意点を探る努力をしろ!」とmojimojiさんを叱咤激励した方が、まだあなたの理想に近づけたはずだ。

「普通の人間」を悪魔に仕立てる方法 - 想像力はベッドルームと路上からというエントリで、「どうして『僕と貴方ではこことここの部分の認識や考え方に相違がありますね。なるほどそれは理解しました。ただ、僕はこのように考えます。』みたいな感じで収まらないんだろう?本当に不思議」なんて愚痴をこぼすくらいなら、歩み寄るべきではない議論があるということ、そして、ただApemanさんを非難するだけでmojimojiさんを励まさず、その結果、mojimojiさんをこの議論から撤退させてしまったために、もはや同意点を探る人間がいなくなってしまう結果になったという事実をもうちょっとよく考えた方がいいのではないかと思う。