伊福部昭『伊福部昭の芸術3 舞』

CloseToTheWallさんが伊福部昭を紹介していて(ここここ)、興味を持ち伊福部昭のCDを購入。

舞 ― 伊福部昭の芸術3 舞踊音楽の世界

舞 ― 伊福部昭の芸術3 舞踊音楽の世界

なぜ、伊福部昭のCDのうち「舞踏音楽の世界」と副題が付いているこのアルバムを買うことにしたかというと、「サロメ」が収録されているからである。「サロメ」はオスカー・ワイルドの原作のバレエ音楽。この曲をブギーポップの一節で知った。

「そう、たとえば――」
 と、また一息吸うと、透子さんはふたたび曲を奏ではじめました。
 今度は口笛だけでなく、ハミングが主体でした。彼女はまるで、どんな音でも再現できる魔法の楽器であるかのようでした。
「…………!」
 私は息をするのも忘れるほどでした。
 それは、さっきの曲などとは比較にならない、胸が高鳴り、心に響き、そしてなんだか、とても切なくなるような――それでいて、とてもリズミカルな力強い不思議な曲でした。

    (中略)

「なんていう曲なの? 教えて!」
 私が聞くと、彼女はくすくすと笑いました。
「笑わない?」
「え? どうして」
「曲のタイトルは"サロメ"、バレエ音楽よ」
「――それがなんで変なの?」
「作曲が、伊福部昭なんですもの」
「?」
「このひと、怪獣映画の曲で有名なのよね――」
    上遠野浩平ブギーポップ・リターンズ VSイマジネーターPart1』より

このブギーポップ第二作の冒頭を飾るやりとりで、「サロメ」の曲の説明としては過不足ないかもしれない。ただ、静かな曲のように思われるならば、それは違うということを付記しておくことは必要かもしれない。

伊福部昭と言えば、ゴジラのテーマか、CloseToTheWallさんが紹介したようなアイヌを意識した音楽というイメージがあるが、この曲はそのどちらでもない。「サロメ」の舞台である中近東の民族音楽を意識した音作りになっている。ただ、リズムを強調したトライバルな感じは、伊福部昭らしいと言えばそうなるだろう。バレエ音楽であるが、リズムを強調しながら時に激しく、時に美しく流れていく旋律は、非常に映像的であると言えよう。映画音楽の巨匠としても知られる伊福部昭の面目躍如といったところか。バレエの展開に合わせて1〜26まで細かくトラックわけがなされており、それぞれのトラックに簡単な解説も付いているので、あまりクラシック音楽になじみがない人にも取っ付きやすいものと思われる。

また、このアルバムにはもう一曲「兵士の序楽」という曲が収録されており、こちらは単純なロンド形式のにぎやかな行進曲。陸軍の依頼で作られた曲らしく、戦後はこのCDに収録されるまでは一度も演奏されなかった曲とのこと。ただ、曲としては大して面白くもない。とは言え、「サロメ」は本当に素晴らしい楽曲で、クラシックファンはもとより、プログレファンやブギーポップファンの人は手に取ってみて損はないアルバムだと言えよう。